大エルミタージュ美術館展 オールドマスター西洋絵画の巨匠たち

2017/3/18(土)〜6/18(日)休館日5/15(月)

森アーツセンターギャラリー 六本木ヒルズ森タワー52階 〒106-6150 東京都港区六本木5-10-1

コラム「エルミタージュ浪漫」

〈第11回〉フランス宮廷文化の最後を飾る“小さな大作”

「この絵には、秘められた歴史や深い哲学はありません。ごらんになった通りです」

 エルミタージュ美術館のフランス絵画担当キュレーター、エカテリーナ・デリャービナさんは、明るい声で、そう言い切った。
 言葉だけ聞くと、きつく聞こえるが、目は笑っている。
「理屈なしに楽しめるから、素晴らしいのです」と、その表情は告げていた。

 この絵とは、18世紀フランス、ロココ時代の最後を飾った画家フラゴナールが、義理の妹で弟子のマルグリット・ジェラールと共作した《盗まれた接吻》のことだ。

《盗まれた接吻》エルミタージュ美術館に展示される、
ジャン=オノレ・フラゴナールとマルグリット・ジェラール《盗まれた接吻》 1780年頃
Photo by Valentin Baranovsky

 宮廷文化が栄えたロココ時代のフランスでは、優雅で装飾的な美術が好まれた。
 なかでもフラゴナールは恋する男女を描いた甘美な作品で、たいへんな人気を得た。

 実物を前にすると、意外なほど小さい絵なので驚く。サイズは、45×55cm。
 大作が多いオールドマスターの間に並ぶと、谷間に咲く可憐な花といった趣である。

展示風景《盗まれた接吻》は、フランス絵画展示室のやや奥まった場所にさりげなく展示される
Photo by Valentin Baranovsky

「でも、その花は大輪ではないですか?」
 と、ジュリャービナさんは続ける。
 絵が大きく感じられるのも、「フラゴナールが、躍動的な構図で描いているからです」と説明する。

エカテリーナ・デリャービナさんエルミタージュ美術館 フランス絵画担当キュレーター、エカテリーナ・デリャービナさん
Photo by Valentin Baranovsky

 共作における役割分担については、全体の構図や人物の描写はフラゴナールが担当し、ドレスなどの繊細な描写はジェラールの筆と推測されている。
 彼女は、衣装や宝飾品を、質感まで伝わるように、きめ細やかに描くのが得意だった。

 この作品が描かれた直後の1789年にフランス革命が起こる。
“オールドマスターの時代”の最後を飾る画家フラゴナールは、近代化の予兆を感じながら、その生涯を閉じるのであった。

■菅谷淳夫 プロフィール
美術ライター。アート関連のほかにも、旅、鉄道、評伝など幅広い分野の記事を執筆。
『小学館版 学習まんが人物館 レオナルド・ダ・ヴィンチ』のシナリオを担当。

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